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  • 背戸 美樹

変わりゆく転勤の在り方か〜住めば都か住むなら都か

更新日:2022年1月26日

さくらが咲くこの季節は、人事異動が行われる会社も多いことでしょう。理由はともかく、4コマ漫画では従業員が転勤の撤回を求めるシーンを取り上げましたが、人事異動には、採用による配属、転勤、配置転換、昇進・昇格・降格などが含まれます。一般的に勤務地が変わることを転勤と言い、勤務場所が変わらない移動を配置転換と呼ぶようです。

 転勤や配置転換は、従業員の能力開発やキャリア形成、欠員の補充などさまざまな理由によって行われますが、必ずしも従業員の希望に沿ったものではないことがあります。特に転居を伴う転勤は、生活圏が変わることで従業員のプライベートに大きな影響を及ぼし、発令後にトラブルが生じることがあります。会社や従業員の将来のためにいろいろと考慮し苦労して仕上げた人事発令なのに、問題が生じると上司にも従業員にも非難され、人事担当者にはなんとも切なく悲しい結末になってしまいかねません。

 今回はトラブル防止に繋がるよう転勤を命ずる人事権について解説いたします。

illustrated by 漫画家社労士 阿部朋子

 

転勤命令は会社の権利か

 個別の労働契約などに職種や勤務地が限定的に明示されている場合を除き、就業規則や労働協約に「業務の都合により転勤を命ずることかできる」と定めることで、会社に転勤命令権があると一般的には考えられます。しかし、その権利は無限ではありません。次のような事実があるときは、否定される可能性があります。

 ◆ 業務上の必要性が乏しい

 従業員の育成や適材適所の人員配置そして組織の活性化といった一般的な人事施策の範囲内であれば認められるケースが多いと思われます。

 ◆ 人選の合理性が乏しい

 私怨による人選はもちろん、退職を誘引するため、労働組合活動に対する制裁などを目的とするものは認められませんが、その人以外にその職務を全うすることができない、余人をもって代えがたいほどである必要はないとされています。

 ◆ 従業員が甘受すべき程度を著しく超える不利益がある

 転勤することが従業員のキャリア形成やプライベート生活において、不釣り合いに不利益が大きいときは、発令自体を否定される可能性があります。

 不釣り合いか否かは、社会環境の変化や時代の要請を十分に考慮し、ケースバイケースで判断する必要があると思われます。現代は変化のスピードがあまりに速く、明確な基準を引くことは難しいと言わざるを得ません。


転勤命令権を確かなものにするために

◆ 規定類の整備

就業規則や労働協約に転勤に関する規程を必ず盛り込みましょう。

◆ 業務上の必要性

人事評価のフィードバックで転勤の可能性を話すだけではなく、1on1ミーティングや日頃の声掛けの場面で、会社の事業運営やキャリア形成における転勤の必要性について話し合いの時間を設けましょう。

 ◆ 従業員情報の収集

 トラブルの少ない転勤発令とするためには、日頃から従業員やその家族の健康、特に病気または不妊治療などにより定期的な通院が必要か、子供の就学状況、配偶者の就業状況など可能な限り収集する必要があるでしょう。ただし、これらの情報の聞き取りには繊細な心配りが必要で、情報の種類によっては、機微情報として厳重に管理しなければならない場合もあります。つまりは、人事担当者には、高い人間性と個人情報保護に関する正確な知識が求められるということです。


変わりゆく転勤の在り方

 働く人の考え方や少子高齢化など社会環境の変化を受けて、国もつぎつぎと法律を整備しその変化への対応を会社に促しています。

 育児・介護休業法26条の子の養育や家族の介護状況に対する会社の配慮義務や労働契約法3条3項の労働契約は仕事と生活の調和にも配慮しつつ締結し又は変更すべきものとの定めからもわかるとおり、従業員本人や家族の病気の治療、家族の介護や子供の養育、配偶者の雇用の継続などワーク・ライフ・バランスへの配慮は必要です。そして、今後は不妊治療に対しての理解や配慮も欠かせなくなることでしょう。


 転勤発令は、会社の重要な施策に基づいて行われ、そう簡単に覆すことはできません。会社も従業員も従業員にかかわるすべての人が満足するような転勤などどこにも存在しないのかもしれません。たとえそうであったとしても、願わくば誰にとっても好ましい結果をもたらすようなものであってほしい。

 住めば都か、住むなら都か・・・できることなら、長い人生、いつでもどんなときも、どんなところでも住めば都でいけたらいいですね。


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