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  • 背戸 美樹

テレワークはパンドラの箱を開く?

更新日:8月24日


新型コロナウイルス感染症が猛威を振るう中、国を挙げてテレワークが推奨されました。

「コロナ禍が去ってもテレワークは将来にわたって活用され得るか?」と周囲のマネジメント層である知人に尋ねると、「一時的に対処しているだけ。経済が動き出すまでやりすごせればいい。働き方として認知されることは難しく、当面ない。」という意見が大勢を占めます。果たして、本当にそうなのでしょうか?



                       illustrated by 漫画家社労士 阿部朋子

 

テレワークとは

 令和3年3月に改訂されたテレワークガイドラインには、テレワークとは「労働者が情報通信技術を利用して行う事業場外勤務」と定義されています。

 「働く時間や場所を柔軟に活用することが可能」であり、「仕事と生活の調和を図ることが可能」な働き方であると解説しています。加えて、「ウィズコロナ・ポストコロナの“新しい日常”、“新しい生活様式”に対応した働き方であり、更なる導入・定着を図ることが重要だ」と今後の拡大をも示唆しています。


労働者とは何ものなのか?

 同ガイドラインでは、自宅で就業することを「在宅勤務」と定義していますが、この自宅で仕事する人には、自営業者、家内労働者と呼ばれる人たちもいます。

どのような形態の「在宅勤務」が労働基準法第9条の「労働者」に該当するのでしょうか?


 昭和60年労働基準法研究会報告「労働基準法の『労働者』の判断基準について」によれば、会社の指揮監督下に置かれていること、受け取る報酬に労務の対償性が認められることなどを要素として、労働者性があるか否かを判断するとしています。

「使用」されて「賃金」が支払われているかを基準として判断するということなのですが、この2つの基準を併せて「使用従属性」と呼んでいます。

この使用従属性があるか否かを見る基準である「指揮監督下にある状態」、「報酬の労務対償性」、そして「労働者性を補強する要素」を下記にご紹介します。


「指揮監督下にある状態」

(1)仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無

  仕事を選べるという状態は使用従属性を否定する重要な物差しとなります。ただ、謝絶  

 する自由が制限される契約もあるので、オーダーされた仕事を断ることが認められている 

 かどうかはひとつの目安だ、とされています。

(2)業務遂行上の指揮監督の有無

  会社が仕事の具体的な内容や進め方を指示し、仕事の進捗状況を労働者からの報告等に

 より把握、管理している場合には、会社の指揮監督を受けているとする重要な要素となり 

 ます。

(3)拘束性の有無

  仕事をする場所や始業時間、終業時間が会社により決められ、会社が労働時間を管理し

 ている場合には、拘束性が認められ指揮監督関係はあるとみる重要な要素となります。

(4)代替性の有無

  仕事を提供する義務のある人自身の判断で、その人に替わって他の人が仕事を提供する

 ことが認められている場合には、指揮監督関係を否定する補強的な要素とはなり得ます。

 

「報酬の労務対償性」

(5)報酬の算定方法

  仕事の完成度、仕上がりなどに応じて支払われるのではなく、時間給、日給、月給等

 労務を提供した時間に応じた金額が支払われる場合には、「使用従属性」を補強する重要

 な要素となります。


「労働者性」を補強する要素

(6)事業者性の有無

  仕事に使用する機械や器具等を誰が用意し、費用負担しているのか、所有や費用負担の

 実態は事業者性の有無を判断する重要な要素となります。また、受け取る報酬が同じ仕事

 をしている他の労働者と比較し高額である場合は、事業者性が強まります。

(7)専属性の程度

  特定の会社の仕事に限り従事することを認められている場合や報酬に固定給部分や年

 齢、勤続年数、家族構成などにより多寡が考慮される生活補償給的な支給項目がある場合

 は、労働者性を補強する要素になります。

(8)公租公課の負担

  給与所得として会社が源泉徴収を行っているか否か、社会保険料や雇用保険料を会社が

 控除し納付しているか否かは、労働者性を補強する要素になります。


テレワークが問いかける労働者性

 テレワークガイドラインでは、テレワークとは「働く時間や場所を柔軟に活用することが可能」な働き方だと説明していますが、一方、労働者が会社の指揮監督下にあるか否かを判断する重要な要素「拘束性」について、「仕事をする場所や始業時間、終業時間は会社により決定されている」ことを要件のひとつとしています。これらの間に矛盾があるように思われませんか?

 「拘束性」が弱まることが、一足飛びに労働者性を否定するわけではありませんが、場所や時間と労働者性の関係が今後変わっていく可能性を秘めているように思われます。

 

 また、テレワーク勤務が常態化すると、評価者サイドとしては、対面で仕事を診る機会が減り、昇降給等のため評価を行う際、労働者が体現する仕事への取り組み姿勢など情意評価の比率が下がり、仕事の仕上がりや成果に重きを置かざるを得ないと考えられます。そうなると労働時間に見合った報酬から、仕事の成果に報いる報酬としての性格が強まっていく、報酬の労務対償性が薄まっていくのではないか・・・こちらはいささか乱暴な見通しと言わざるを得ませんが、評価項目の見直しは避けられないようにも思われます。


テレワークが社会を変える可能性

 労働者性を測る物差しを通してテレワークを見てみると、その拡大は、労働時間の考え方や報酬の決め方を改革するという企業がなかなか踏み込めなかった領域、いわばパンドラの箱を開くかもしれない、そんな思いが私の中には湧き上がってきます。


 労働者性や評価制度に限らず、様々な効用や課題が見えるテレワークですが、冒頭みなさんに投げかけた、テレワークはコロナ禍のあとも広がるかどうか、私なりの考えを書いてみたいと思います。


 北海道の企業には慢性的な人材不足という問題があります。若く有能な人材を市場で獲得するのは至難の業です。今までのように人材を独占するためには、報酬のみならず生活環境全般にわたる好待遇の提供が必要になります。単独で好待遇を提供できないのだとしたら、「人材を独り占めにする」という考え方から「人材をシェアする」という企業側の思考の切り替えも現実味を帯びてきます。テレワークは、副業人材を活用する有効な手段のひとつと考えることができます。

 また、時間に追われ、家族の世話に追われ、人との距離が取れず不快な満員電車に乗る痛勤をせずとも、仕事に就き生活の糧が得られるような働き方は、コロナ禍前までは桃源郷のような世界にしか存在しないと思われていました。奇しくも心地よい働き方を新型コロナウイルス感染症の拡大が多くの人に体験させてしまったように思います。

 場所や時間に囚われず働きに見合った報酬が受け取れる心地よい働き方を求める人間と、フルタイムが無理ならば仕事に見合う労働力を一定の時間でよいので提供して欲しいと考える企業とのニーズはぴたりとはまるようにも思われます。

 そして、技術革新により遠隔作業、リモートワークは格段に快適になっています。すべての仕事に当てはまるわけではありませんが、おそらくテレワークは拡大するのだろう・・・と私は思います。


 パンドラの箱が開かれたとき、厄災が解き放たれ最後に希望が残されたとされていますが、テレワークが拡大することで労働時間と報酬の関係性や評価制度の見直しが議論されることは労使双方にとって決して厄災ではない、折り合うまでには様々なハードルがあるものの、テレワークが社会へもたらすものの多くは希望であってほしい、と願う今の私なのでした。

 


テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドラインパンフレット

https://www.mhlw.go.jp/content/000828987.pdf

厚生労働省「在宅勤務についての労働者性の判断について」

https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/zaitaku-kinmu/index.html


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