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  • 背戸 美樹

なんでもハラスメントにもの申す!

更新日:2021年5月8日

 4月1日某新聞社の紙面いっぱいに「電話は新人がとるべき」は「電話ハラスメント」になりつつあるかもしれないという広告、みなさんはご覧になりましたか?電話対応を職場の新人にやらせる行為をハラスメントとして、テレハラと名付ける動きもあるようです。

 他にも職場のハラスメントとして、リモハラ、テクハラ、ロジハラ、ハラハラ、・・・など世の中○○ハラと名付けられる行為、言動がどんどん増殖していますが、なんでもかんでもハラスメントと表現することに、私自身かなり抵抗感があります。

 今回は「ハラスメントという言葉の意味」や「職場のハラスメントとはなにか」について解説してみたいと思います。


 そして、漫画家社労士 阿部 朋子先生に世の中に溢れるハラスメントという言葉のカオス感をイラストにしていただきました。阿部先生はイラストのお仕事もされています。ご興味がある方は当事務所までご照会ください。

illustrated by 漫画家社労士 阿部朋子

〘ハラスメントとは〙

ハラスメント“Harassment”という言葉は、次のように定義されています。

ハラスメントHarassment : 悩ます[される]こと、不愉快にさせること、いやがらせ

                             出典[ウィズダム英和辞典]


 あるひとつの行為、言動を不快だと捉えるか否かは主観的なものであり、嫌だなと感じる心は、本人含め誰にも抑え込めないし、その不快な感情を言葉にし、態度で示すことは誰にでも当たり前に認められています。

 電話応対が苦手な人が家人の不在時電話番をお願いされたとすれば、それはその人にとって間違いなく迷惑で不快な行為で、嫌だと拒否できるでしょう。IT知識が乏しい人が友人に教えを乞うたときに「そんなこともわからないの?」と言われたら嫌な気持ちになって「そんな言い方はない」と抗議することもあるでしょう。

 日常の中で人は誰でもこの不愉快なこと、嫌がらせと捉えられるような行為、言動に遭遇する機会はたくさんありますよね。ここでいう不愉快や嫌がらせと感じる基準は、あくまでも主観に基づいていることがお分かりいただけると思います。


 ハラスメントという言葉を耳にすると、反射的に「職場における嫌がらせ」を連想する傾向が強いように思われますが、「職場のハラスメント」は、この主観で判断され得るものなのでしょうか?

 

〘職場のハラスメントとは〙

職場で行われる「嫌がらせ」「いじめ」行為として法令で定義されているものは次の4つです。


パワーハラスメント

 職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されること(労働施策総合推進法(抄)第30条の2一部抜粋)


セクシャルハラスメント

 職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されること(男女雇用機会均等法(抄)第11条一部抜粋)


マタニティハラスメント

 職場において行われるその雇用する女性労働者に対する当該女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、妊娠又は出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるものに関する言動により当該女性労働者の就業環境が害されること(男女雇用機会均等法(抄)第11条の3一部抜粋)


育児介護ハラスメント

 職場において行われるその雇用する労働者に対する育児休業、介護休業その他の子の養育又は家族の介護に関する厚生労働省令で定める制度又は措置の利用に関する言動により当該労働者の就業環境が害されること(育児・介護休業法(抄)第25条一部抜粋)


 各法の条文の「就業環境が害されている」と判断するためには、高いハードルがあるように思います。不快感を持つ、嫌がらせだと感じるということは本来主観的なものですが、「平均的な労働者の感じ方」という客観的な基準を用いて、就業環境が害されているか否かを判断しなさいと法は言っているのです。この客観的な基準「平均的な労働者の感じ方」が厄介で、現状、世の中全体で、人と人の間で、企業と従業員の間で共通の物差しがあるとは言い難いと思います。だから、イラストのようになんでもかんでも「ハラスメントだ!」と言うことに、私は違和感を覚えてしまうのだと思います。


 このような環境の中、それぞれの法は、職場のハラスメント防止のために、さまざまな措置を講じることを企業に義務づけています。

 セクシュアルハラスメント、マタニティハラスメント、育児・介護ハラスメントについては、令和2年6月から規模に拘わらず、全ての企業に防止措置を講じることを義務付けています。パワーハラスメントに関する企業の措置義務は、大企業には令和2年6月から、来年令和4年4月1日からは中小企業にも適用されます。

 

〘事業主の措置義務 10項目〙

 企業が講じなければならない措置は次の10項目です。

◆ 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発

① 職場における各種ハラスメントの内容・ハラスメントを行ってはならない旨の方針を  明確化し、労働者に周知・啓発すること

② 行為者について、厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等の文書に規定し、

労働者に周知・啓発すること

◆ 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備

③ 相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること

④ 相談窓口担当者が、相談内容や状況に応じ、適切に対応できるようにすること

◆ 職場における各種ハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応

⑤ 事実関係を迅速かつ正確に確認すること

⑥ 速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行うこと(注1)

⑦ 事実関係の確認後、行為者に対する措置を適正に行うこと(注1)

⑧ 再発防止に向けた措置を講ずること(注2)

◆ そのほか併せて講ずべき措置

⑨ 相談者・行為者等のプライバシー(注3)を保護するために必要な措置を講じ、その旨

労働者に周知すること

⑩ 相談したこと等を理由として、解雇その他不利益取扱いをされない旨を定め、労働者に

周知・啓発すること


注1 事実確認ができた場合 注2 事実確認ができなかった場合も同様

注3 性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報も含む。

[職場におけるハラスメント対策が事業主の義務になりました!令和2年2月厚生労働省作成]より引用[https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000611025.pdf]


 ハラスメント外部相談窓口を担っていて最近気になるのは、労使ともにいきなり行政の介入を求めるケースが多いことです。

 職場におけるハラスメント問題については、都道府県労働局長による助言・指導や調停による紛争解決援助を利用できますが、企業内で措置を講じないまま紛争解決援助制度を利用することはできません。ハラスメント関連の相談を企業の相談窓口が受けた場合は、法定のハラスメント事案に該当するか否か企業内で結論づけ、必要な措置を講じたうえで、それでも合意にいたらない、十分ではないと当事者が判断した時点ではじめて行政は援助制度の活用に関する相談に応じるのです。まずは自律的な解決を目指すことを行政は求めています。

 企業のコンプライアンス担当や人事担当の皆様には、ぜひ上記10項目の措置が自社で講じられ、職場のハラスメント防止に向けた体制が整っているかどうか今一度ご確認いただけたらと思います。

 

 最後に、相談の傾向として、先に述べた通り、従業員が感じていることと企業の考えや対応、そして法律との間に大きなギャップがあるのではないかと感じることが多くなっています。このギャップが大きければ大きいほどトラブルに発展し、長期化する傾向があるように思います。

 コンプライアンス担当や人事担当の皆様においては、職場のハラスメントの定義、問題が生じたときの企業の対応方針について従業員の理解を深めることで、このギャップを埋める活動に重点をおいていただけたらと思います。

「職場のハラスメントとはなにか」について企業と従業員相互の理解が進むことが、職場にトラブルを生じさせないことに繋がっていくのではないかと思う今日この頃です。

                                         


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